こうちミュージアムネットワーク研修会
文化財レスキュー活動報告
「東日本大震災から古文書を守る!―史料保全の現場から―」

(1)日時 平成23年8月5日(金) 15:00~16:30

(2)会場 高知県立文学館

(3)講師 平川新(NPO法人宮城歴史資料保全ネットワーク理事長・東北大学教授)

(4)概要
3月11日に発生した東日本大震災では、多くの人命・家財が犠牲になりました。また同様に、美術館・博物館・図書館等に収蔵されている文化財だけでなく、民間に伝わってきた文化財も、津波や家屋倒壊などによって甚大な被害を受けました。そうした被災文化財のうち、宮城を拠点に民間所在の古文書類についてレスキュー活動を進めてきたのが、「NPO法人宮城歴史資料保全ネットワーク」です。
今回、発足からの活動のあゆみや、被災地で現在進められている活動の内容についてお話を聞く機会を得ることができました。

会の発足は2003年に起きた宮城県北部地震を契機とし、その時の反省に立った「次の災害に備える」活動を進めてきました。以来今年までの間に、「宮城方式」と名付けた調査方法によって、所蔵者にも負担が少なく、効率的に資料所在情報の集約を進めています。

震災後の活動では、完了はしていなかったものの、所在把握を進める中、所蔵者や関係機関・自治体職員の方との信頼関係が築かれていたおかげで、ガソリン不足時にも情報収集を進め、その後の動きがスムーズに行えたこと、家ごと資料が流されてしまった旧家があった中、調査時に撮影した写真データが残っていたことで所蔵者の方に感謝されたことなど、具体例を交えたお話を聞くことができました。

しかし、土蔵や古建築のように維持に金銭的な負担がかかる歴史遺産をどう守るかといった課題、古文書以外の美術品や民具などの資料まで幅広く対応している余裕のない現状、広域災害を見越した調査データの分散管理、レスキュー後の資料の処遇など、今後の活動には大きな課題が山積しています。
こうした課題にも積極的な提言を行い、現場の熱気に直接触れられるお話を聞けたことは、大変貴重な経験となりました。

宮城資料ネットが次の災害に備えた取り組みを進める中で、今回の震災を迎えたことは、「教訓を次に活かす」という姿勢が形だけで終わらず実のあるものに結びついたことが大きいのではないかと思います。
阪神淡路大震災の時の教訓が共有され、災害時に備えた資料保存のネットワーク作りがすすめられてきましたが、こうした取り組みの重要性が再認識された今、「次」に備えて行動を起こすことが求められているのではないかと改めて感じる一日でした。

 (土佐山内家宝物資料館 藤田)